ステミラック注は、脊髄損傷の治療に使用する再生医療の製品です。間葉系幹細胞は骨髄液の中に存在していて、骨、血管、心筋などに変化する能力を持っています。治療は、骨髄液から採取した間葉系幹細胞を培養し、一度だけ点滴で投与します。
メカニズムは、間葉系幹細胞が神経栄養因子を放出すること、間葉系幹細胞が神経細胞への分化すること、もともと存在している神経細胞を活性化することなどが考えられています。
ステミラック注とは
ステミラック注は、脊髄損傷の治療に使用する再生医療の製品です。成分は、ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞です。患者の骨髄液から採取した間葉系幹細胞を培養して増やし、静脈に注射することで、脊髄損傷に伴う神経症候や機能を改善します。
間葉系幹細胞とは
幹細胞は、様々な細胞に変化する能力のある細胞のことです。幹細胞には幾つか種類があり、ES細胞やiPS細胞などがよく知られています。
間葉系幹細胞は、幹細胞の中でも、特に間葉系の細胞に変化する能力のある細胞です。間葉系の細胞には、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞などがあります。間葉系幹細胞は骨、血管、心筋などに変化する能力を持っています。
骨髄液の中に存在しているので、骨髄液から分離して培養する事ができます。
適応は「外傷性脊髄損傷」
ステミラック注の適応は、「外傷性脊髄損傷」です。脊髄損傷は、脊椎の脱臼や骨折などによって脊髄が圧迫されることによって起こります。日本では毎年約5000 人が新らたに脊髄損傷になっています。
累計患者数は10万人以上います。これほどの患者さんが治療を必要としていますが、今にところステミラック注を使用できるのはごくわすがです。それは、細胞培養施設における注射製剤の供給体制が限られるためで、当面は、年間十数人ほどの患者さんが治療を受けられます。
治療
脊髄を損傷してから1カ月以内を目安に治療が行われます。治療の手順は以下の通りです。
間葉系幹細胞を培養
患者さんの骨髄液を局所麻酔下で採取します。脊髄液から間葉系幹細胞を採取し培養します。このとき、同時に採取した末梢血から作成した培養液で間葉系幹細胞を増やして注射製剤をつくります。
注射製剤には5000万~2億個まで増殖した間葉系幹細胞が含まれることになります。
点滴
出来上がった注射製剤を生理食塩水で3倍以上に希釈します。それを、1回だけ点滴注射します。
効果
すぐに改善効果が認められた症例が多かったようです。投与の翌日から足を動かしたり、車いすを漕ぎ始めたりした患者もいたということです。6カ月後の経過を見たところ、自動車運転が可能なほど回復した患者もいたそうです。
効果の差
脊髄損傷の程度によって効果に差が出てきます。不完全な断裂で、残こっている神経が多いほど効果が出やすいようです。
痛みの改善傾向
脊髄損傷の患者さんのうち75%の方に慢性疼痛が生じます。この治療で、痛みの改善傾向も見られたそうです。
リスク
血液の流れが滞る塞栓症や血栓症のリスクが高まるのでないかと考えられています。しかし、今のところ塞栓症や血栓症などの有害事象は確認されていません。
治療メカニズム
以下の効果が複合的に働いていると考えられています。
神経栄養因子
間葉系幹細胞が神経栄養因子を放出します。神経栄養因子が、神経細胞を元気にしていく(賦活化)と考えられています。
神経細胞に分化
間葉系幹細胞が神経細胞への分化していきます。投与した間葉系幹細胞が、新しい神経細胞になるということです。
神経細胞の活性化
もともと存在している神経細胞を活性化します。間葉系幹細胞が、脊髄損傷後も残っていた神経細胞の機能を回復させていきます。これは、ラットを使った実験結果にも示されています。脊髄損傷の急性期のラットに間葉系幹細胞を投与したところ、神経系細胞の機能回復に作用している遺伝子の発現が増加したそうです。
まとめ
・ステミラック注は、脊髄損傷の治療に使用する再生医療の製品です。
・間葉系幹細胞は骨髄液の中に存在していて、骨、血管、心筋などに変化する能力を持っています。
・治療は、骨髄液から採取した間葉系幹細胞を培養し、一度だけ点滴で投与します。
・メカニズムは、間葉系幹細胞が神経栄養因子を放出すること、間葉系幹細胞が神経細胞への分化すること、もともと存在している神経細胞を活性化することなどが考えられています。
参考資料:日経DI2019.2.26