アルコール依存症の治療は、断酒のイメージが強いと思われがちです。
ところが最近では、すぐに断酒するのが難しい場合は、飲酒量を減らしていく治療も行われています。
断酒が難しいから治療をあきらめる人が多いためです。
治療をやめてしまうよりも、飲酒量を減らしていく治療を続ける方がベターという考え方です。
セリンクロは飲酒量低減を目的に開発された薬です。
飲酒量を減らす薬
セリンクロはあくまでも飲酒量を減らす薬です。
そのことが添付文書にも明記されています。
以下の点がポイントになります。
・飲酒量を減らすことが目的。
・飲酒量を減らすための他の治療ー心理的社会的治療も行うこと。
・本人に、飲酒量を減らす意思があること。
すぐに断酒する方がいいことは明確ですが、現実的に飲酒量を減らしていく方が現実的で効果が期待できる患者さんが多いようです。
飲酒しても気持ち良くならなくなる
セリンクロは脳内のオピオイド受容体に作用します。
オピオイド受容体には、いくつかのタイプがあります。
オピオイド受容体のうち、快感に関係する受容体の働きを邪魔します。
具体的には、μオピオイド受容体とδオピオイド受容体を邪魔します。
その反対に、不快感に関係する受容体の働きを高めます。
具体的には、κオピオイド受容体の働きを高めます。
その為、セリンクロを服用すると、お酒を飲んでも大して気持ちよくならなくなります。
そして、お酒を飲む気にならなくなっていくということです。
飲酒の1~2時間前に服用
飲酒の1~2時間前に1回10㎎服用します。
症状により1回20㎎と処方される場合もあります。
10㎎より20㎎の方が、吐き気やめまいなどの副作用が出やすくなるので注意が必要です。
服用を忘れて飲酒してしまった場合は、気づいた時点で服用します。
ただし、飲酒終了後には服用できません。
吐き気の副作用に注意
主な副作用は、悪心(31.0%)、浮動性めまい(16.0%)、傾眠(12.7%)、頭痛(9.0%)となっています。
かなりの人が服用後に吐き気やめまいを催すことが分かっています。
飲み合わせ
セリンクロはオピオイド受容体に作用する薬なので、同じくオピオイド受容体に関係する薬との飲み合わせに注意が必要です。
セリンクロは、オピオイド受容体作動薬の効果を弱めてしまいます。
その為、オピオイドの離脱症状も現れてしまうことがあります。
疼痛緩和治療をしている方や、手術時に注意が必要です。
具体的には、MSコンチン、オキシコンチン、トラマール、トラムセットなどと併用できません。
下痢止めのロペミンの作用も弱めてしまいます。
ロペミンは、腸管のμオピオイド受容体に作用して平滑筋を弛緩させます。
ちょうどモルヒネによって便秘になるのと同じ作用で下痢を止めます。
セリンクロはμオピオイド受容体の邪魔をしますから、ロペミンの作用も弱めてしまいます。
他にも、咳止めとして使用されるコデインやトリメブチンなどの作用も弱めてしまいます。
*トリメブチンについては、こちらの記事をご覧ください。
まとめ
・アルコール依存症の治療は断酒だけでなく、飲酒量を減らす治療も行われています。
・セリンクロは飲酒量を減らす目的の薬ですが、心理的社会的治療も行うことや、本人に節酒の意思があることが必要です。
・吐き気やめまいなどの副作用に注意が必要です。
・オピオイド受容体作動薬の効果を弱めてしまうので併用薬に注意が必要です。
参考資料:日経DI2019.3.22、添付文書