メトホルミンは糖尿病治療薬の一つですが、腎機能に注意が必要な薬です。
メトホルミンを配合した薬には、メトグルコ、グリコランなどがあります。
配合剤としては、イニシンク配合錠、エクメット配合錠などがあります。
この記事では、メトホルミンの作用と乳酸アシドーシスという副作用についてまとめます。
メトホルミンの作用
体は栄養素を摂取するだけでなく、体に必要な物質を作り出しています。肝臓では様々な化学反応が起こり、摂取した栄養素から体に必要な物をつくっています。糖分は栄養素として食事から摂取します。しかし、不足した時には肝臓で新しく糖がつくられます。その原料になるのが乳酸という物質です。乳酸から糖を作る化学反応のことを糖新生と呼びます。
メトホルミンは、糖新生の邪魔をします。乳酸をもとにして糖がつくられるのを邪魔するため、血液中の糖分が減っていきます。その他にも、体じゅうの筋肉が糖をエネルギーとして利用するのを促進する作用があります。また、腸での糖の吸収を抑える働きもあります。
乳酸アシドーシスに注意
アシドーシスとは血液が酸性になっている状態のことです。通常、動脈を流れる血液は、pH7.35~7.45の弱アルカリ性になっています。血液が通常よりもアルカリ性に-つまりpHが7.35以下の状態になることをアシドーシスと言います。そして、血液中の乳酸が多くなることで血液が酸性になることを乳酸アシドーシスといいます。乳酸は酸性のため、乳酸が多くなれば血液は通常よりも酸性になります。
乳酸アシドーシスは、メトホルミンの重大な副作用の一つです。乳酸アシドーシスが疑われる症状として胃腸症状、倦怠感、筋肉痛、過呼吸等の症状があります。放置しておくと昏睡に至り、致死率は50%に上ります。 乳酸アシドーシスが疑われる場合には、直ちに服用を中止して検査を行います。
どんな人がなりやすいか
メトホルミンの副作用である乳酸アシドーシスが起こりやすいのはどんな人でしょうか。最も重要なのは腎機能ですが、他にもリスク因子があります。
添付文書には以下の記載があります。
**まれに重篤な乳酸アシドーシスを起こすことがある。リスク因子としては、腎機能障害、肝機能障害、低酸素血症を伴いやすい状態、脱水(利尿作用を有する薬剤の併用を含む)、過度のアルコール摂取、感染症、高齢者等が知られている。特に、脱水、過度のアルコール摂取等により患者の状態が急変することもあるので、以下の点に注意すること。〔「重大な副作用」の項参照〕
腎機能低下
腎機能が低下するとメトホルミンが排泄されにくくなります。そのために、血液中のメトホルミンが増えて乳酸アシドーシスが起こりやすくなります。特に、重度の腎機能障害(eGFR 30 mL/min/1.73 m2未満)のある患者はメトホルミンを服用できません。eGFRは腎機能の指標です。eGFR が30以上でも、腎機能に応じた制限があります。eGFRが45~60の場合、1日量として1500mgが最高用量です。eGFRが45~60の場合、1日量として750mgが最高用量です。
肝機能障害
乳酸から糖を作る糖新生は肝臓で起こっています。もし、肝臓の機能が低下すれば、糖新生も行われにくくなります。そうなると、糖に変換されなかった乳酸が余り始め、乳酸アシドーシスになりやすくなります。肝機能障害の方も乳酸アシドーシスになりやすいため、メトホルミンを服用する際は注意が必要です。
低酸素血症を伴いやすい状態 ・脱水(利尿作用を有する薬剤の併用を含む)
低酸素状態になると、体は多くの乳酸を作り出します。そのため、心臓や肺の病気で低酸素になりやすい方も乳酸アシドーシスを起こしやすいといえます。
過度のアルコール摂取
アルコールを大量に摂取すると、糖新生を抑制する物質が増えることが分かっています。具体的には、アルコールからアセチルCoAがつくられるときにNADHという物質ができます。NADHが糖新生の邪魔をします。メトホルミンの働きと相まって乳酸アシドーシスを起こしやすくなります。
まとめ
・血液中の乳酸が多くなることで血液が酸性になることを乳酸アシドーシスといいます。
・腎機能が低下しているときにメトホルミンを服用すると乳酸アシドーシスになることがあります。
・腎機能に応じた制限があり、重度の腎機能障害の場合にはメトホルミンは服用できません。
・腎機能障害の他に、肝機能障害、低酸素血症、過度のアルコール摂取などはメトホルミンによる
・乳酸アシドーシスを起こしやすくします。
参考資料:メトホルミン添付文書、インタビューフォーム、日経DI2019/6/19、日経DI2019/8/16,糖尿病 49(12)941~945, 2006