このサイトでは、患者さんに薬の説明をする薬剤師の視点で薬の解説をしています。
普段、患者さんに説明しきれないことまで、詳しく解説します。
骨粗鬆症の新たなメカニズムが明らかになってきています。
イベニティは、新たに明らかになった骨粗鬆症のメカニズムにアプローチする薬です。
この記事では、骨粗鬆症の注射薬イベニティの作用機序をまとめています。
わかりやすい言葉と図を使った解説で、細胞レベルでどのように作用するのかを理解して頂けると思います。
イベニティとは
イベニティは、骨粗鬆症治療薬です。
イベニティは、骨がつくられる量を増やし、骨が壊される量を減らす薬です。
骨のサイクルを調整することで、骨量を増やし、骨の強度を強めます。
その作用には、Wnt(ウィント)という物質とスクレロスチンという物質が関係します。
骨のサイクル
骨は、新しい骨細胞がつくられ(骨形成)、古い骨細胞が壊される(骨吸収)というサイクルを繰り返しています。
このサイクルが乱れ、骨がつくられる量が減り、骨が壊される量が増えると骨量が減少して骨粗鬆症になってしまいます。
イベニティは、骨のサイクルにアプローチする薬です。
Wntとは
Wnt(ウィント)は、様々な生物に存在する糖タンパク質です。
おもに動物の発生に必須な分泌タンパク質で、発生や器官の形成、細胞の増殖、分化、運動などに関わる物質です。
Wntは、様々な細胞のシグナル伝達に関係しています。
細胞膜にある受容体にくっつくことによって、シグナルを伝えます。
Wntは骨形成のアクセル
Wntは様々な細胞に働きかけますが、骨に対しては「新しい骨をつくるように」というシグナルを伝えます。
骨細胞は、間葉系幹細胞からできます。
間葉系幹細胞は、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞など様々な細胞に分化できる細胞です。
間葉系細胞から、前骨芽細胞ができ、次に骨芽細胞、骨細胞ができます。
Wntは、間葉系幹細胞から骨細胞ができるようにシグナルを出します。
間葉系細胞から骨細胞ができるまでの各段階を促進します。
Wntは、骨をつくるアクセルの働きがあります。
スクレロスチンはWntのブレーキ
こうして骨が出来上がると、今度は「もう骨を作らなくていいよ」というシグナルが出ます。
出来上がった骨細胞から、シグナルを伝える物質が分泌されます。
「もう骨を作らなくていいよ」というシグナルが出す物質の一つが、スクレロスチンです。
スクレロスチンは、Wntの働きを邪魔することで、「新しい骨をつくるように」というシグナル伝達を邪魔することで、骨が作られないようにします。
さらに、Wntの働きを邪魔すると古い骨を壊す働きがある破骨細胞の働きが強まります。
スクレロスチンは、新しい骨が作られるのを邪魔し、古い骨が壊されるのを助けることで骨量を減らしてしまいます。
つまり、スクレロスチンは骨が作られすぎないようにブレーキをかける役割があります。
スクレロスチンが働きすぎると、骨量が減少して骨粗鬆症になってしまいます。
イベニティはスクレロスチンの邪魔をする
イベニティの有効成分はロモソズマブというモノクローナル抗体です。
ロモソズマブは、スクレロスチンの働きを邪魔する薬です。
つまり、骨形成のブレーキを踏めなくすることで、骨がつくられるようにします。
スクレスチンは、ロモソズマブがくっつくとWntに働きかけることができなくなります。
Wntが再び働く
スクレロスチンがWntの働きを邪魔することができなくなるため、Wntが再び働くようになります。
Wntの働くようになるため、骨が再びつくられるようになります。
また、スクレロスチンが破骨細胞の働きを邪魔することもできなくなるため、骨が壊される量が減ります。
骨細胞がつくられるようにし、壊されないようにすることで骨量が増えて、骨の強度が増すことになります。
イベニティの有効成分ーロモソズマブは、スクレロスチンの働きを邪魔することで、Wntが再び働くようにします。
骨細胞がつくられるようにし、壊されないようにすることで骨量が増えて、骨の強度が増すことになります。
注意点
・適応は、「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」となっています。
まとめ
・イベニティは、骨がつくられる量を増やし、骨が壊される量を減らす薬です。
・イベニティの有効成分ーロモソズマブは、スクレロスチンの働きを邪魔することで効果を発揮します。
参考資料:イベニティインタビューフォーム、日老医誌 2013;50:130―134、生化学第81巻 第9号,pp.780-792,2009、Spinal Surgery 32(1)19-23,2018、日経DI2019/3/1、日経DI2019/7/25