下痢や熱中症による脱水症状には、水やスポーツドリンクよりも経口補水液の方が効果的です。
この記事では、経口補水液とスポーツドリンクとの成分の違いや、脱水症への効果について解説します。
経口補水液の飲み方、摂取量の目安についてもまとめています。
大半の水分は小腸で吸収される
水分は大半は、小腸で糖などの消化物と一緒に吸収されています。小腸で吸収された残りが大腸へ移動していきます。大腸では、残りの水分が吸収されて便になります。
大腸は、水分を吸収する能力が強力で、最後に水分を吸収して便を固くしていくため、大腸で水分が吸収されると書かれることがあります。しかし、実際には摂取した水分の約95%が小腸で吸収されています。小腸での水の吸収には、ナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT1)が関わっていることが分かっています。SGLT1はナトリウムとグルコースと一緒に水を吸収する働きがあります。
ナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT)には、SGLT1のほかにSGLT2が存在します。SGLT1が主に腸で水とナトリウムと糖を吸収するのに対して、SGLT2は主に腎臓で水と糖を再吸収します。糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬は、SGLT2の邪魔をすることで尿から血液に戻る糖の量を減らすことで血糖値を下げる働きがあります。
経口補水液の成分
経口補水液は、小腸で効率よく水分を吸収できるように成分が調整されています。
小腸での水の吸収に関わるSGLT1は、水を単体で吸収するわけではありません。水を吸収するときにナトリウムと糖(グルコース)も一緒に吸収します。そのため、効率よく水を吸収するためには、一定の割合でナトリウムーつまり塩分と糖分が共存していなければなりません。
経口補水液は、水とNaと糖の比率を、最も効率よく吸収される比率に調整したものです。スポーツドリンクと比べると、糖質は少なく、ナトリウムなどの電解質が多い組成になっています。水やスポーツドリンクでも水分の補給は可能ですが、経口補水液はより効率的に水分を補給することができます。
下痢になると
腸は蠕動運動によって、食事で摂取したものを下へ下へと運んでいきます。ウイルス感染や過敏性腸症候群などによって腸の運動が過剰になることがあります。腸の運動が過剰になると、腸の粘膜での水の吸収が追いつかなくなり下痢になってしまいます。
しかし、小腸での吸収能力がなくなるわけではありません。下痢の時でも、SGLT1は正常に機能し続けることが分かっています。そのため、下痢になってから経口補水液を摂取することは、下痢による脱水症の治療として効果的といえます。
熱中症
熱中症の予防や治療にも、経口補水液が推奨されています。「日本救急医学会熱中症診療ガイドライン2015」にも、「塩分と水分の両者を含んだものが推奨される。現実的には経口補水液が望ましい。」と述べられています。
具体的には、乳幼児から大人にはOS-1、乳幼児にはアクアライトORSが推奨されています。
経口補水液の飲み方
経口補水液の飲み方については、厳密な決まりはありませんが、大まかな目安は以下の通りです。
OS-1の摂取目安量
学童〜成人:1日に500〜1000mL
幼児:300〜600mL(g)
乳児:1日に体重1kgあたり30〜50mL(g)
大正製薬工場ホームページ
小児の軽度な下痢による脱水については、以下の摂取量が目安になります。
小児の軽度な下痢による脱水時
・はじめの1時間は、20ml/kgを目安とします。
つまり、体重10㎏で200ml、体重20㎏で400mlを摂取します。
・その後は、上記の半分の量を目安にします。(1時間あたり10ml/kg)
つまり、体重10㎏で1時間に100ml、体重20㎏で1時間に200mlを摂取します。
熱中症の場合は、上記よりも速い速度での摂取が必要になります。それは、熱中症による臓器障害を防ぎ、意識があるうちに治療効果を引き出すためです。
オーエスワン(OS-1)
オーエスワン(OS-1)は、軽度から中等度の脱水状態に対して水分を補給するのに適した経口補水液です。OS-1は、感染性腸炎や風邪による下痢・嘔吐・発熱が起きた時の脱水状態や、高齢者の脱水状態、過度の発汗による脱水状態に効果があることが臨床試験で示されています。個別評価型病者用食品の許可を受けています。
アクアライトORS
アクアライトORSは、乳幼児のウイルス性感染性胃腸炎に伴う下痢・嘔吐・発熱による脱水状態に対して効果的です。アクアライトORSも、個別評価型病者用食品の許可を受けています。
明治アクアサポート
明治アクアサポートは、OS-1に組成が近い一般用食品です。
アクアソリタ
アクアソリタは、ナトリウムと糖の比率を保ちつつ低浸透圧にしたものです。
201907
まとめ
・小腸での水の吸収に関わるSGLT1は、水を吸収するときにナトリウムと糖(グルコース)も一緒に吸収するため、効率よく水を吸収するためには、一定の割合で塩分と糖分が必要です。
・経口補水液は、水とNaと糖の比率を、最も効率よく吸収される比率に調整したものです。
・経口補水液の飲み方については、厳密な決まりはありませんが、大まかな目安が示されています。
参考資料:Jpn.J.Biometeor.52(4)151-164,2015、腸での水の吸収と水の拡散|太陽化学株式会社、大塚製薬工場ホームページ